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神戸大好き 明日のKOBEを創る会

過去の研修会

第149回研修会

講 師: 三木孝
(神戸市保健福祉局長)
演 題: 認知症「神戸モデル」と
健康創造都市こうべ
 
 

 

 
革新的な医療を創り出す集積地

 皆さんこんにちは。神戸市保健福祉局長の三木でございます。この神戸大好きあすのKOBEを創る会は今回で150回目でございますが、私が係長か課長になったあたりから冊子も拝見しておりまして、こういう所に自分自身が出ることに少々緊張しています。ちょうど昨日認知症「神戸モデル」に協力していただける医療機関が決まりまして、発表しました。皆さん方のお手元に広報紙KOBE2月号がそろそろ届くころです。その中に折り込みが入っていますので是非ご覧いただきたいと思います。全市で326の医療機関で認知症の検査をしていただけるようになりました。
 きょうは認知症の問題などを中心にお話しします。私自身は医者ではありませんが、少し自己紹介をさせていただきますと、昭和57年、神戸ポートアイランド博覧会があった翌年、市役所に入りました。この3月で60歳になりますので役人としては最後です。私が入りました時は長田の丸山のコミュニティセンターの担当でして月に3〜4回はコミュニティセンターに行っておりました。平成3年から民生局という福祉部局の係長をさせていただきました。その時に阪神・淡路大震災を迎えました。民生局は災害救助も担当しており、避難所の開設も当時は民政局がやりました。私は垂水区で家は大丈夫だったのですが、垂水方面から国道2号線で三宮に来るときに、焼けた家も倒れた家もあって、その中を市役所まで行ったのを覚えています。それから1週間くらいは本当に不眠不休で仕事をしたのですが、避難所に食料を送らないといけないのでその確保にあちこち電話しておりました。そして2日目でしたでしょうか、夜中に長田区まで見に来たことを覚えています。その後課長になり神戸医療産業都市を担当しました。

医療産業都市から健康創造都市へ

 震災の10秒の揺れで、市内総生産の1年分が失われてしまいました。経済的に言うと、普通のことをしていたらまちは寂れるばかりで、市民所得も実は全国の平均以下になりました。そこからどうやって復興するかということで神戸市では医療産業都市構想に取り組み、今年、無事20年を迎えました。その20年の内15年は担当させていただいて、先端医療からスーパーコンピューターまで、最先端の機器や施設をポートアイランドに作って、大切なのはそこで働く人なのですが、日本、あるいは世界でも最先端の人たちを神戸に集めるということをしてきました。結果的には、神戸経済の復興という意味では1500億円くらいの経済効果が出ていますし、30億円くらいは税を投入しているのですが、それを上回る税収効果が出ているということです。
 それで、こういう医療産業都市の成果をより知っていただくということで、2年前に経済同友会から言われたのですが、先端医療だけをやっていても市民や市内の会社に伝わらないということで、医療産業都市をもっと進化させて健康都市というのを作ってほしいという提言をいただきました。特に、メンタルヘルスが非常に大切になってきているということで健康創造都市をやろうということで、中央市民病院の元院長で脳外科医の菊池先生や、アシックスの会長、理化学研究所の先生と健康創造都市を推進しています。きょうは認知症の前に二つ話をしたいのですが、一つが健康寿命、もうひとつが健康格差という話です。この二つを良くしていくというのを、市内経済の活性化と関連させつつやっています。

健康寿命を延ばして介護保険料を下げる

 さて、健康寿命とは何かですが、皆さんが生きておられる間で、日常的に医療や介護に頼ることなく、自立して生活できる期間のことです。平均寿命は女性の方が男性よりも長生きです。ところが、健康寿命は男女であまり変わりません。政府の取っているデータです。平成22年には神戸の男性の平均寿命は79.6歳、健康寿命は70.1歳ですが、平成28年にはそれぞれ80.9歳、72.5歳まで延びました。健康寿命の延びの方が大きいです。
 平成22年時点で、神戸市の男女の健康寿命は政令指定都市の中で真ん中くらいでした。その時は浜松市がトップで神戸とは2.5歳くらい差がありました。何故か?浜松市ではお茶を飲んでいるとか、健康にいいことをやっているとか言われましたが定かではありません。我々はこれをせめて浜松市に近づけようと取り組んで4年になりましたが、平成28年には神戸市の男性の健康寿命は浜松市とは0.5歳くらいの差で2位になりました。ところが、女性は同じ期間で健康寿命が0.5歳しか伸びない間に平均寿命はもっと延びまして、健康でない期間が伸びてしまいました。結果として、神戸市の女性の健康寿命は政令指定都市の中でも平均以下の15位まで下がってしまいました。
 我々がなぜこの健康寿命を延ばそうとしたかというと、今のままの要介護率や平均寿命の伸び率ですと、介護保険料が2025年時点で倍近くになると思われたからです。そこで、神戸市は健康寿命を延ばして、介護保険料を下げていこうとしています。神戸市は人口構成が団塊世代に偏っているという特徴がありまして、2015〜2025年の間に、75歳以上の方の人口が倍くらいになります。ですので、この人口増にどう対応するのかというのが一番の課題です。もう一つは神戸の場合困ったことなのですが、長田区もそうで、震災の影響で世帯が分離しまして一人暮らしの高齢者が増えています。一人暮らしの方が多いとやはり要介護の認定率が上がってきます。それは介護保険料を上げる要因になります。
 65歳からと75歳からでは、介護が必要になる理由が大分違います。65〜74歳の方はいわゆるメタボ、生活習慣病だったり、特に高血圧で脳卒中になったり、心筋梗塞になって介護保険にかかるというのが4割を超えます。一方、75歳以上の方で多いのは認知症です。次が骨折・転倒です。私の母親も一人暮らしでしたが、きっかけは転倒で、その後、病院暮らしを経て最後は認知症になってしまいました。そういうリスクがあります。

メタボ予防からフレイル予防にギアチェンジ!!

 そこで我々が去年から言っていますのが、フレイルに気を付けようということです。今さっき北山先生が「ちょっと忘れやすくなった」と言われましたが、ちょっと歩きにくくなった、ちょっと立ちにくくなった、あるいは精神的に不健康になる前の状態、これをフレイルといいます。このフレイルの間に自分がフレイルになっているということに気が付きますと、対策が取れます。ところがそれを通り過ぎて足腰が立たなくなったら要介護ということになってしまいます。ですからフレイルに気を付ける、またフレイルになることを予防できれば要介護率が下げられるということです。
 そういう取り組みを我々はいち早く始めています。薬局で「フレイルチェック始めました」というのが張ってあるところがあります。フレイルチェックは、栄養チェック、口の機能のチェック、簡単な運動テストをします。結果は科学的なデータになるよう、神戸市でためています。通常、フレイルチェックは国民健康保険加入の65歳の方が対象ですが、薬局によってはそれ以外でもちゃんとやってくれますので、一度やっていただきたいと思います。
 フレイルにならないために一番大事なのは皆さん運動と思われていますが、運動だけでは駄目です。まずは栄養です。神戸の場合、女性の健康寿命の短い原因の一つは、どうも痩せすぎです。データを集めてみると、若い方が痩せすぎというのは僕らも分かっていたのですが、40〜65歳の方も全国平均に比べて、BMI18以下の方が全国平均と比べて4〜5割多いのです。痩せすぎの方が多いのです。神戸の女性は痩せていて、美しさの要因ということで良いのかもわからないですが、長生きをしようと思ったら痩せすぎに注意です。特に75歳からはタンパク質をきっちりとっていただきたい。場合によっては脂分もOKです。きっちりとっていただきたい。その上で、運動です。
 さらに運動と同じように、人と話をする社会参加が重要です。これをぜひやっていただきたいと思っています。メタボ予防の弊害が65歳くらいから出てくるのですが、実際は75歳からのリスクは骨折・転倒です。痩せすぎに伴うフレイルというリスクがありますので、メタボ予防からフレイル予防にギアチェンジしましょうと今言っています。これは東京大学高齢社会総合研究機構の教授と一緒にやっています。特に口の健康というのは体の健康の始まりで、噛みにくくなった、唾液が出にくくなった、あるいは滑舌が悪くなったら注意していただきたいと思います。
 一人暮らしの方は当然孤食なのですが、ご夫婦でおられても孤食の方がいらっしゃいます。実は、一人で食べる孤食の方と誰かと一緒に食べる共食の方を比べると、一人暮らしで孤食の方の方が、同居者がいて孤食の方よりはるかに要介護リスクが低いのです。ですから、ご夫婦二人とも無事に家で暮らされている方はぜひご飯を一緒に食べて奥さん旦那さんとお話ししていただきたい。これが本当で、介護リスクの中で、同居者ありで孤食の方のうつリスクなど非常に高いですから覚えておいてください。

健康格差とは
〜読書は健康寿命を延ばす!?〜

 もうひとつ、健康格差についてです。国立長寿医療研究センターにいらっしゃる千葉大学の近藤先生と我々が8年前からWHOの紹介で共同研究をしています。いろんな手法で健康格差と健康寿命の研究をされています。その研究で思いがけない結果が出まして、読書が健康寿命を延ばす可能性があるというものです。これは論文にはなってないのですが、すごい結果が出てくるなあと思いました。実は今の市長は読書が大好きで、各地に、特に三宮に大規模な図書館を建てようと計画されていますが、健康寿命にもプラスとの結果が出ました。やはり、読書が大事なのです。さっき話したように、しゃべるのも大事ですから友達と図書館に行くまでおしゃべりして、図書館で本を読んで帰っていただくといい。

健康と暮らしには密接な関係がある!

 こういうデータがどうやってでてくるのかということですが、我々も参加しているもので、元々愛知県に国立長寿医療研究センターがあってここのメンバーが研究を始めました。一見健康とは関係がないような皆様方の日常の暮らし、所得、家族構成、外出頻度と健康状態の関連性を調べる研究をここ15年くらいやって、その半分くらいの期間、政令指定都市として初めて神戸市も参加しています。市では、介護保険事業計画が改定されるたびに3回も、65歳以上の健康な人30万人くらいから選んで、1万5000人くらいの調査を続けています。  神戸市では高齢者の介護や見守りなどに関する相談窓口のあんしんすこやかセンターを中学校ごとに作っていて、全市で1万人以上のデータを集めますと、そのあんしんすこやかセンターごとのデータが出ます。それで比べてみますと、75歳以上の方が要介護になる原因の中で一番多い転倒ですが、その転倒率は地区によって2倍以上の差があります。神戸市を転倒率で色分けしますと、中学校ごとに塗り分けられます。よく見ると、坂が多い所が転倒率が高いかというとそうとも限りません。それはなぜかを各区の保健センターで調べて、そういうデータに基づいて保健指導をしようとしています。先ほど話した口腔機能にも地域によって3倍くらいの差が出ています。これは残念ながら歯医者さんの多い所が有利です。こういうデータを見られるツールはWHO神戸センターと一緒に開発したものです。  この調査の中で、友人に会う頻度が高い人は死亡リスクが低い。外出をする人、スポーツをする人は認知症リスクが低い。歯は大事で、歯を失っても入れ歯を入れたらいいのですが、入れないままにしますと介護リスク、認知症リスクは高くなります。また、ソーシャルキャピタル、つまり婦人会や自治会が弱い地域は介護リスクが高いです。公営住宅は周りと比べたら、うつとか転倒リスクが低いです。こういうものはいろんな研究者が全国のデータを比較して出てきています。

生涯を通じた健康管理を行います!

 今、遺伝子の研究が進んできていますが、疾患の発症のメカニズムを検討したうえで、遺伝子は変えられないですから生活習慣を変えることによって、発症を予防しようということです。例えば人によってお酒の強い人、弱い人がいます。同じように、いろんな疾患のリスクは人によって高い低いが生まれながらにあります。それを、生活習慣を変えることによって疾患になることを避けようという考え方です。これは、第二次世界大戦の時にものすごい貧困状態に置かれた地域があったのですが、特にオランダでナチスドイツによって閉鎖された村で、妊婦が満足に食事できない状況で生まれた子がその後どうなったかという追跡調査があります。胎内にあった時の栄養状態というのは100歳まで影響します。低体重での出産というのは、あまりよくありません。また、幼い時に飢餓状態になりますと、生活習慣病や心疾患リスクがものすごく高くなります。
 日本は戦後に母子保健制度を作りました。市民全員、妊婦健診もあるし、生まれた赤ちゃんの四か月児健診もある。そういうデータは全部市役所が持っています。そのデータに京都大学の川上先生が着目され、母子保健のデータは宝の山だということがわかりました。最近は母子保健、乳幼児健診では、妊婦や子供の周辺での喫煙の有無なども確認します。妊娠中の喫煙の有無で、子供の虫歯率が倍以上になることがわかりました。喫煙は、いろんなところに影響します。低体重児、尿たんぱくになるリスクも高い。川上先生は、学校保健のデータを結びつけて、この子は小学校でこういう健康状態でした。だから今後はこういうリスクが高いですよと卒業時にお返ししているそうです。
 神戸市でも、もう少しでできるようにお願いしています。それをすると、親の健康意識も変わって親子そろって健康になるということがわかっています。これが市民の生涯を通じた健康管理ということで、学校保健や大人になってからの特定健診、フレイルチェック、がん検診のデータも一緒に入れて、市民が自分で管理できるようにしようというのを市役所でやろうとしています。自分のデータを市役所に預けたらいつでも見れるというシステムを作ろうとしています。その為に、65歳以上に行っていた「健康とくらしに関する調査」を20歳以上でやりました。そこで、いろんな生活習慣の項目であったり、学歴、所得、職業、子供の時の経験など健康に影響すると考えられる項目を設けています。

長田区は地域の結束が固く、社会的なつながりが強い

 まだ全部解析できていませんが、社会的なつながりと健康リスクにはある程度相関があるようです。先ほど、神戸市の女性の健康寿命が伸びていないというグラフを見ましたが、専業主婦など就業していない女性は、就業している女性に比べ、生活習慣病のリスクが高いということがわかりました。これは健康診断を受けていない割合が高いということと関係しています。神戸市の場合、今高齢層の女性は専業主婦の割合が高かったので、そのことも神戸市の女性の健康寿命に影響していると思われます。一方で、自分は幸せだと思っている幸福度の高い方の割合は圧倒的に専業主婦の方が高いです。つまり、健康状態はあまりよくないけれど幸せである、ただ、働いていないことは健康寿命に多分に響いているというのが我々が考えていることです。
 ここ長田区はどうかというと、残念ながら喫煙率や飲酒率が高いです。そういう生活習慣が健康に悪い影響を及ぼしていると思うのですが、メリットは、やはりソーシャルキャピタル(社会関係資本)が豊かなことです。やはり結束が固くて町内会の参加率も高いです。もうひとつは、神戸市は女性が痩せすぎなのですが、長田区はそこまでいっていません。また、詳細な分析は保健センターに返しますので聞いてみてください。
 こういう調査は理化学研究所の支援を得てやっておりまして、理化学研究所は健康科学を一緒に進めようということで、うつやメンタルヘルスがどういう仕組みでなっていくのかというのを一生懸命研究されていますので、これに我々も協力しようということです。先ほど言いました個人の健康データを預かるということですが、大変申し訳ないのですが、個人にお返しするのはスマホでやろうと思っています。65歳の方の6割くらいがスマホを使っていらっしゃいます。4月から「MY CONDITION KOBE(マイコンディションコウベ)」というスマホの健康アプリで、自分の生活のデータを入れると健康データを見られるようにします。見るだけではなく、スマホのカメラで食事を写していただいたら大体のカロリー数も出ますし、アドバイスも出ます。栄養士と保健師が入ったスマホのアプリだと思ってください。国保の加入者はこの4月から加入できるようにしますので、ぜひ見て頂いたらと思います。
 また、できれば、健康にいいことに取り組んだ方に、健康にいい商品の割引を受けられるように企業の協力を得たいと思っています。それで、今神戸市では薬剤師会と一緒に、電子お薬手帳「harmo(ハルモ)」を推進しているのですが、これを健康管理のアプリと一緒に使えるようにして、スマホを持っていたら今飲んでいる薬がはっきりわかるようになり、お薬手帳を忘れても大丈夫で、例えば災害などの時にも役立ちます。また、兵庫駅前の健康ライフプラザも変えます。これまでスポーツジムがありましたが、ここにアシックスに入ってもらって健康寿命の延伸プログラムをやりますので、ご希望の方は是非参加してください。何をやるかというと、歩く姿をカメラにとって、健康データを入れて、何歳まで歩けるかという歩行寿命を出します。また、歩行寿命を延ばすプログラムもやってもらおうと思っています。これも4月からやりますので乞うご期待です。

認知症は誰でもなる可能性のある病気です

 さて、認知症のことです。介護保険が始まってから、介護が必要な方は3倍以上になっています。今8万人いらっしゃいます。ところがこの8万人の内、認知機能が衰えて要介護になっている方が4万8000人いらっしゃいます。この方々が本当に認知症かどうかは要介護認定の主治医意見書では調べられません。認知症の有病率は80歳から急激に上がってきます。残念なことに90歳から男女比がかなり差が出ます。
 認知症は原因によって4つに分かれます。老化に伴って起こるのがアルツハイマー型認知症、脳疾患があって血管が破裂したことに伴う認知症、昔はこれが多くて6割くらいあったのですが、脳血管疾患の治療の進歩で少なくなっています。他に幻が見えたりするレビー小体型認知症と前頭側頭型(ぜんとうそくとうがた)認知症とがあります。  これらは歳をとると誰でもなり得る病気ですから、家族が認知症になったら恥ずかしいとか、隠していたらしいですが、違うのです。誰でもなる可能性のある病気で、特にアルツハイマー型というのはそうです。脳の中に異常なタンパクがたまり、神経細胞が死んでしまう病気です。これは老化に伴う病気で、記憶を担っている部分が死んでしまうと症状が出てきます。人によって症状が違うのは正常に働かなくなる部分の違いです。記憶の部分が老化して死んでしまったらアルツハイマー型認知症が始まると理解してください。認知症と言われても絶望しないでください。
 認知症の主な症状は、記憶力が低下します。特に新しい記憶がです。ある出来事があっても、そのこと自体を忘れます。例えば昼ご飯に何を食べたか思い出せないのは認知症ではなく、食べたかどうかわからないのは認知症のもの忘れの症状です。ただ、怒りっぽくなったり、忘れるということ自体がストレスになりますので身近な人に当たってしまうのです。あわせて手足のまひや言語障害が起きますが、脳血管性の認知症はとにかく早く治療して頂いたらダメージが減りますから、進行を防ぐことができます。  レビー小体型認知症はパーキンソン病のように震えが出るケースがあります。これは脳の中にレビー小体がたまる病気です。これは記憶力が落ちるというのがあまり出てこないのでよく誤解されるのですが、困るのは幻視が出ることです。夜中に誰かが歩いていたいうのは大概これです。また、寝ている間に暴れてしまうことがあります。そこで薬の開発を製薬企業が一生懸命、20年間やっていますけれども成功しません。脳細胞が死んだら元には戻らないということらしいです。ですから、治療を始めるのは早ければ早いほど介入効果があります。アルツハイマー型認知症では、プレアルツハイマーという形で、異常なタンパクがたまったらいけないので、そのタンパクがたまる前の状態を一生懸命研究者が調べています。その段階では認知症ではありませんので、その状態から介入を始めてやっと認知症が防げるというのが今の医学界の見解のようです。

G7保健大臣会合レガシー
「認知症の人にやさしいまちづくり条例」

 さて、その「認知症の人にやさしいまちづくり条例」というのは2年半前にG7の保健大臣会合が開催されて、ヘルスケアカバレッジというのが議論されました。神戸市はその意義をレガシー、遺産として継ごうという市長の発案で、条例を作り始めました。
 認知症というのは新しい記憶から無くなっていきますから、本人のストレスをなくすには環境を変えないことです。一番いいのは生まれ育ったところでそのままいることですが、なかなかそうもいかないので、せめてグループホームなどの施設に入るとしても生まれ育った地域で暮らすことです。誰もがなる可能性のある認知症の方の意思を大切にして、安心安全に暮らせるまちづくりを目指そうというのが理念で、それを周りの人皆が支えるということです。
 このための方策として4つを考えていて、先ほど申し上げた医療の早期介入が必要なのですが、それを早めに診断するのが大事なのです。認知機能が落ち始めた時から認知症予防に入るのです。もうひとつは認知症になったら行方不明になってしまうことがあります。市でも毎年2〜3人の方が亡くなっています。警察の方にネットワークがあって探してもらうのですがそれでも亡くなってしまいます。
 それと、よく新聞に出ているのが、高齢者の方の交通事故です。運転してしまって交通事故になるのですが、多くは認知機能や運動機能が低下したことによる事故です。ちなみに、認知症は免許の欠格事由のひとつですから、認知症になった方が運転をしたら罰せられます。医師会の先生方と議論しているのですが、「あなたは認知症の疑いがありますからお薬を出しておきましょう」と言われた時点で本来は運転免許を持ってもらったら困るのです。ですから医者は本人に運転免許返納した方がいいと注意しないといけません。ところが現場ではそれがなかなかできないらしいです。

全国初の認知症「神戸モデル」創設

 本来認知症は症状も様々ですから専門の医療機関に行かないとわからないのですが、認知症は治らない病気で誰も診断に行こうとしないのです。さいたま市が初めて医師会と認知症の検診制度を一生懸命やったのですが、対象になる市民の1〜2%しか受けませんでした。そういうこともありましたから、まず身近な医療機関で調べてもらって、次に専門の医療機関に見てもらうというのを、神戸市が税金を取ってやりましょうということにしました。これは超過課税と言いまして、久元市長も寺ア副市長も税の言わば専門家ですから、我々もたくさん議論しました。超過課税の導入には市民の理解が必要です。公共事業、三宮の再開発、神戸空港、医療産業をするお金があったらそれを充てたらいいじゃないかと言われるのですが、これは社会保障です。今のままの社会保障制度では、国も自治体も財政的に滅びます。だから新たな高齢者のサービスは、特に認知症は市民皆がなりうるものですから、市民一人一人が負担するべき病気ということで、所得割ではなく均等割で一人400円いただきます。それをまず3年間やらせてもらって、実績をもらってからまた決めてもらいましょうという全国初の事故救済制度です。  事故救済制度そのものは国民的な議論がありました。これは、平成19年に愛知県大府(おおぶ)市で認知症の高齢の方がJR東海の電車にはねられて亡くなりました。ところがJR東海が家族に損害賠償請求したのです。しかも高裁までは賠償請求が認められました。このような判決が通りますと、認知症の方を家庭で看ている時に行方不明になる可能性だってありますから、家族の方はその時にお金を請求される。結局最高裁では賠償請求が認められずに済んだのですが、それはこの家族が実際に認知症高齢者を管理監督するのは無理だから、管理監督者には当たらないと判断されたからです。そしてこの判決では、管理監督している人には賠償責任があるのではないかと結論しています。これはえらいことだということで国全体で議論されたのですが、国は制度創設を見送りました。

認知症診断と事故救済制度

 我々は市長の指示でそれを考えましょうということで議論を始めました。これはまず認知症の方に、ちゃんとした認知症の診断をより早期から受けていただいて、認知症と確定した場合に救済する制度です。まず検診が始まります。この検診は326機関で始めますけれども、そこでは簡単な質問に答えていただく改訂版長谷川式スケール、それから家族あるいはヘルパーがいたら横についてもらって「この人どうですか」と問診があります。それに答えていただいて、それをお医者さんが見て「あ、この方やはりちょっと危ないですね」ということになったら紹介状が送られます。その紹介状を受け取った医療機関の方はまず画像診断します。そして血液検査もやって総合的に認知症かどうか、またアルツハイマー型か、脳血管性か、レビー小体型か、その他まで見ます。また、確かに認知機能は衰えてきているけれども、認知症ではないという方もいます。これがポイントです。こういう軽度認知障害(MCI)の方の6〜7割は、ある程度介入したら認知症にならないですみます。そういうMCIという診断もちゃんとしてもらえます。
 これは保険診療で当日の診察の時にはお金が要りますが、後で神戸市に申請していただけたらお金が返って来ます。あんしんすこやかセンターや個別医療機関の窓口に受診券の申込書がありますので、これをFAXで送っていただいたり、あるいは市のホームページから申し込めます。そうしたら受診券をお送りしますのでそれで受けていただいたら無料です。こうした認知症の診断制度が1月28日から始まります。この診断で認知症と診断された方は、賠償責任保険に入っていただきます。これはこちらで勝手に入るということができないので、入っていただきます。入っていただいたら、4月以降2億円までの賠償責任保険に入れますし、コールセンターもあります。「おじいちゃんが自転車に乗ってぶつかった、子供を轢いてしまった」という時にはコールセンターに相談いただいたら24時間365日対応します。
 それと、認知症と診断された方で、8×5センチの携帯電話機能付きGPSを持つのに同意していただける方には本体を無料でお渡しします。通信料2000円はご負担いただきますが、おじいちゃんの行方が分からない時には電話したらちゃんとつながります。また、本当に行方不明になってしまったら警備会社が駆けつけます。これも無料でやらせてもらいます。それと、もう一つ多いのが、認知症の方を介護された方もいらっしゃると思いますが、やはり施設などでもあるのが殴られるなどの被害です。ひっかかれるケースもあります。そういうのも、故意でなければ見舞金を出します。それと、一番心配なのが失火、火事です。これについても1000万円までですけれど、1世帯あたり40万円の見舞金を出します。失火ではほとんどの場合は、重過失がなければ賠償責任はなく、損害賠償請求されずに済むはずですが、それでも心苦しいですよね。だから見舞金を出します。こういう全国初のモデルをやらせていただきたいと思います。
 これは市民の税金でやっていますから市民と市民でない人を分けています。これは、税金でやっている以上仕方がないと思ってください。これは先ほど言いました賠償責任がない場合でも、仮に暴行を受けて死亡したとなったら3000万円まで見舞金が出ます。これらの制度については3億円くらいかかりますので、お一人400円の税金を集めこれを3年間やらせていただいて、これは全国初ですから、実際保険料もまた上がるかもしれません。認知症の方はどんどん増えていますから保険料は上がるのですが、実際に保険リスクによって保険料は決まってきますので、毎年保険会社と話し合って保険料を決めるようにします。まず3年間やらせていただきます。こういうものは介護保険の経費でやったらいいじゃないかと言っても厚生労働省はダメと言っていますので、その3年間の間に我々はそういう話もさせていただこうと思っています。診断は1月28日から始まって、事故救済制度は4月から、税金は6月から納めていただきます。

認知症にならないための10か条

 当然認知症になる方の早期予防のために我々はWHO神戸センターあるいは神戸大学ともいろんな研究をやっていますし、認知症専門の医療機関は、政令市最多の7施設あります。長田区では西市民病院が認知症疾患医療センターですので、ちょっとこれはわからないとか、認知症の中でも問題行動に本当に困っていらっしゃる方は、西市民病院に行ってご相談していただければと思います。我々が特にやらないといけないのは地域の啓発です。これはぜひ婦人会・自治会の方にお願いしたいのですが、私は今こういうオレンジリングをしています。これは認知症サポーター研修を受けるともらえます。もう少しレベルの高いサポーターになったらロバのバッジをもらえます。ロバは認知症サポーター養成講座のマスコットです。研修では、認知症で徘徊している人に声をかけるのはとても難しいのですが、それの練習もしてもらいます。
 神戸大学の古和先生が、脳神経内科で認知症を専門にしておられます。その方の「認知症にならないための10か条」を借りてきました。まず@規則正しい生活A適度な運動B腹八分目で、メタボも認知症のリスクファクターですC血圧も高血圧は認知症リスクですD禁煙は必ずですE飲酒はダメじゃないです。でも、適度にF家族とちゃんと話をしましょうG趣味は必ずいります。これはいろんな動作も含めての趣味ですからH生活に不安がないことも大切です。生活に不安があったら早めに相談して不安をなくしてくださいI周りのことに興味を持ってください。自分のことも大切ですが、周りのことにも興味を持っていただくことが重要です。

「人生100年時代」をイキイキと生きる

 最後に、今人生100年時代と言われています。神戸は100年生きることができる可能性が高いまちです。山があって海があって、坂があるから運動ができて、本当にきれいなまちです。健康を楽しむまちづくりということで、長田区でしたら高取山に登っている方もいるし、とにかく歩けるところが多いです。坂のあるまちはしんどいけれども歩いていると楽しいです。そういうまちで健康を楽しもうということで、いま現に、神戸市で100歳以上の方は約1000人と、全国平均と比べるとはるかに多く、人生100年時代が始まりつつあります。驚くことに、10年前に生まれた人は半分の人は107歳まで生きるらしいです。だから人生120年時代くらいまで行くのではないかと思っています。
 ところが、皆が100歳まで生きる時代は大変です。織田信長が人生50年と言った時代は、平均寿命は30歳くらいです。戦前で60歳くらいまで生きる。戦後も初期はそうです。大体この時代に社会保障制度は設計されています。大体20歳くらいまでが就学期、60歳くらいになったら引退です。これは非常に今時代が合わなくなっていて、平均寿命が80歳、85歳になりますと引退後が長い。それをいかに健康に生きるかという話だったのですが、これが人生100年時代になったらどうなるかというと、人生で2回学ばないといけません。まず50歳あるいは60歳くらいまで働きます。そうしたら、今からまた青年時代に戻ってまた勉強して第二の人生を始めて、やっと85歳くらいに引退できるというのが人生100年時代です。だから私共はまだ思春期です。
 人生100年時代の課題はまず病気予防、特に認知症の対策に注意してください。認知症は生活習慣によって変わります。先ほど言いました10か条を守ってください。そして、やっぱり働き方を変えないといけません。私の年から新たな仕事をしようと思ったら働き方を変える必要がありますが、今はITがありますから健康で働けます。ライフステージの変化によって、次の趣味を考えてください。そして、勉強してください。そして、いろんな技術を身に付けてください。僕らのように仕事しかしてきていない人は家事ができない。家事ができない人は、お嫁さんに離婚されたらもうすぐに駄目です。これはあかんわけで、特にそういう世代の男性は専業主婦の奥さんに頼っていますから、今後は家事を分担しないといけません。そして、離婚や家庭内離婚も駄目です。家庭内離婚は一人暮らしよりも長生きできません。そういうことで、奥さんあるいはご主人と末永くご一緒にいていただいて、いろんなことに興味を持ってチャレンジいただくというのが人生100年時代の課題です。これを最後に終わらせていただきます。ありがとうございました。


 
     
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